2018年9月11日火曜日

VOICE 79(長期研修)/鍼灸師(女性)

 東方鍼灸院を退職後、カリブ海を巡るディズニーファンタジー号に鍼師として乗船してからあっという間に4ヶ月が過ぎました。現在の住まいでもあり、職場でもあるディズニーファンタジー号は、2012年3月に就航した新型船(全長340m、全幅38m、総トン数128,000 トン)で、乗客定員約4000名、乗組員約1500名、日本人乗組員は私を含め最大時3名でした。私の職場である6つ星スパは、船長が指揮をする船橋よりも上である12階船首にあり、フィットネスセンター、床屋、美容室、歯のホワイトニング、ネイル、フェイシャル、マッサージなどのサービスを提供しています。
 
 その中の一室が鍼治療室です。船内は安全のため限られた場所以外は火を使用不可、お灸はできませんので、鍼治療が主となります。スパの中でも最高 の場 所である治療室から見える景色はすばらしく、患者さんに「船内で最高の場所で仕事をしているんだね。」と言われます。世界中からの患者さんはアメリカ人が一番多く、鍼を受けるのがほとんど初めてです。「鍼って何にいいの?」と言う方、「前から受けてみたかったけど、機会がなかった。」という方、WHOの鍼適応疾患が記載された鍼の案内を見て予約される方、スパの施設紹介を行うオープンハウスや鍼灸の紹介・腰痛・漢方の セミナーに参加され予約される方がほとんどを占めます。
 
 また、ディズニークルーズはリピーターや大人数の一族や友人グループで来られるが多いです。中には 「前回のクルーズで鍼をしてよかったから」と予約をされる方や、治療を受けられた方の紹介で予約をしてくださる方もいらっしゃいます。数は少ないですが、 はるばる日本から来られて「鍼を始めて受けます」と言う方もいらっしゃいます。
 
 乗船したての頃、マネジャに一通り鍼治療する試験がありました。幸い治療室には耳鍼用として王不留行の在庫が大量にあったので、東方鍼灸院で学んだ「刺さない鍼・陰陽太極鍼」をマネジャに行いました。売り上げ達成のため常にストレスいっぱいのマネジャには、心経や肝経のツボがよく効きました。王不留行をいくつか貼った直後に、最初は圧痛が強かったふくらはぎがやわやわになった時、彼女は大笑いし始めました。痛みも何も感じないのに効果が出ることに驚いたようです。
 
 その後、マネジャのアドバイスにより「通常、鍼師は治療に鍼を使うんだけど、私は王不留行を使います。どちらも同じ効果ですがどちらがいいですか?」と尋ねるようにしました。するとほとんどの患者さんは「私は鍼のことはなにも知らない。あなたが専門家なんだから、好きにしていいわ。」「効果が出ればなんでもいいよ。」とおっしゃいます。
 
 治療は、鍼は何千年も前から中国で治療されているもの、バランスを整える自然療法であること、また、日本人が行 う鍼のよさがを理解して貰えるように説明しながら進めます。その場で施術者、患者さんの双方で効果が確認できる治療法は、「すごい!魔法みたいだね」と、 患者さんに大変喜ばれます。「ミッキーみたいでしょ」と冗談で返すと、「私にとってはミッキー以上!」と言われることもあります。西洋人には鍼は神秘的な魔法のような療法と思っている方もいると聞きますので、誤解を防ぐために、一般的に鍼は複数回受けると効果が高いことを説明もします。
 
 日本で学んだ鍼を世界中の人に施術する。こんな素晴らしいことが体験できるのは、東方鍼灸院で学んだ経験のおかげと大変感謝しております。私が東方鍼灸院を知ったのは、東洋鍼灸専門学校の先輩に「(私の出身である)北海道なら、すごい先生がいらっしゃるよ」と教わり、ホームページを見たことがきっかけです。そのときに長期研修生を募集していることを知りました。
 
 吉川先生に初めてお会いしたのは、卒業後の夏、一日の短期研修生として研修をさせていただいたときです。鍼灸学生のときに吉川先生のDVDを見て、陰陽 太極鍼を試してみましたが、学生だった私は治療効果をうまく出すことができず、「吉川先生だからできるのではないか。」と思っておりました。一日研修で は、吉川先生が実際に治療しているところを見学させていただき、更に吉川先生はどんな質問にも気さくにお答えくださいます。「陰陽太極鍼はだれでもできるのよ。長期研修生もみるみるうちにできるようになるの。」とのお言葉に、長期研修生として学びたいという気持ちが益々強くなりました。
 
 長期研修生の待機登録をお願いしたものの、長い人では長期研修生に約3年待機したことを伺い自分の順番が来るのは遠い先だと諦めておりました。その後、幸いなことにお声がかかり、東洋鍼灸専門学校を卒業した年、2012年11月から1年4ヶ月間、長期研修生として東方鍼灸院で学ぶことができました。その経験は、とても貴重なものとなっています。
 
 吉川先生の患者さんにツボの場所を尋ねながら取穴をし、陰陽のバランスを整える治療である陰陽太極鍼は、多くの症状に対応ができます。現在の医学では治 療が難しいとされる病名の患者さんでも、陰陽のバランスを整えることで楽になることを何度も目の当たりにしました。この方法は、外国人の治療をするときに、患者さんの訴えを英語を全て理解することは難しいにもかかわらず、効果を出せることにつながっています。
 
 東方鍼灸院 で実際に患者さんを治療するようになった初めの頃は、自分の鍼の効果が出て症状が楽になっているかを患者さんに尋ねるのが恐ろしくてたまりま せんでした。しかし、患者さんの症状がよくなるまで、王不留行、皮内鍼、耳鍼、刺絡、温灸、点灸、ローラー鍼、梅花鍼など、あらゆる技術や理論を使いこなし真摯に施術される吉川先生の姿勢を習い、患者さんに効果を尋ねながら治療をしていくうちに、ツボが一ミリずれるだけで効果が劇的に変わることを学びました。また、全世界から帯広に研修に来られる鍼灸師の先生との出会いもとても刺激になりました。吉川先生や代表、一緒に働く長期研修生の方にも大変お世話になりました。
 
 7ヶ月の契約の半分が過ぎ、11月に入ると感謝祭、クリスマスやお正月で船は忙しい季節です。カリブ海でも冬はやってきます。10月頃から海が荒れる日が多くなり、船酔いを訴える患者さんが増えてきました。乗組員も激しく揺れる船の中では船酔いを訴える人が 多いです。お互い仕事中の時間のないときでも王不留行をサッと耳に貼って「船酔いの薬を飲んでもよくならなかったのに、種を押していたら楽になった」と喜 ばれます。試行錯誤の毎日ですが、一人でも多くの人に日本で学んだ鍼のよさを知って貰えるように努力をし、また次の契約では別の航路にも挑戦したいと思っ ております。(2014年)

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