2018年9月11日火曜日

VOICE 35/鍼灸師(大阪府・男性)

 昨年鍼灸学校を卒業した後、東京と大阪で開催された吉川先生の講習会に参加したり、鍼灸雑誌の記事やDVDで勉強したりしていましたが、もっと実際の臨床を間近で拝見し、治療の手順などを詳しく学びたいと思い、今回帯広に行くことを決意しました。
 
 やはり吉川先生の治療はすごかったです。効果発現の速さ、侵襲度の低さ、対応できる疾患の幅広さ、患者さんの満足度など、どれにおいても優れた治療法で あることを再認識しました。そしてそれらは陰陽論等の中医学理論を駆使しつつ、今、眼前にいる患者さんの変化のプロセスにしっかりと寄り添うこと、なによりも先生の治療への情熱と患者さんに対する誠実さによって達成されるものであると思いました。
 
 圧痛などの所見の変化を確認しつつ、ミリ単位で鍼を置くポイントを微調整して最大効果点を探れるのは、刺さない鍼の大きなメリットだと思います。実際背部兪穴の圧痛が、鍼を数ミリずらしたら消失するシーンを私は何度も目の当たりにしました。
 
 また補瀉もとても厳密なものであることを思い知らされました。実技指導時に私のミスで補瀉を確認せず申脈穴に鍼を置いたところ、先生の目の具合が 悪くなってしまい、スタッフの方が慌てて正しく鍼を置いたら症状が治まったということがありました。このことは肝に銘じておきます。見学した治療の記録を1例 記します。

◎症例:62歳、女性。2012年1月19日。今回が初診。
主訴は右側の顔面痙攣(発症して3年ほど)、右の耳鳴り、左膝窩外側痛、両踵が全体的に痛む、左示指の痺れ(怪我でDIPが尺側に曲がっている)。糖尿病の既往、食欲がありすぎるとのこと。血圧が高いため薬を服用している。肥満体
舌診;舌尖紅、舌苔無、中央に裂紋、舌下静脈怒張
脈診;メモ忘れ
腹診;左中府、中脘、右季肋部、左章門、京門に圧痛
腓腹筋;左右の上部(脾の部位)に把握痛
首周六合;右天窓の圧痛が強い

治療;十二経を切経して、過敏反応が強い経穴から鍼を置いていった。
  1. 左大鐘に補(下向き)→腓腹筋が柔らかくなり、腹部も緩んだ。患者さん「左足が楽になった。お腹も楽になった」。
  2. 右俠谿に補
  3. 左公孫に補→左章門の圧痛消失
  4. 左豊隆に瀉
  5. 右郄門に補
  6. 右少海に瀉→右天窓の圧痛消失
  7. 左尺沢に瀉
  8. 左曲池に補
  9. 患者さんが目の不快感を訴えたので、圧痛のあった左太陽に対応する遠隔穴である左光明に瀉→左太陽の圧痛消失。同じく圧痛のあった左承泣に対応する左厲兌に補→左承泣の圧痛消失。患者さん「目が楽になった」。
  10. 右日月に温灸。患者さん「気持ちいい」。
  11. 食欲を抑えるため、左耳の飢点、渇点に王不留行を貼付
  12. 右耳の神門に王不留行を貼付→右少海の反応消失(※心経の瀉法に神門を用いる)
  13. 右耳の肺点に王不留行を貼付→左尺沢の反応消失。腎脾胃の各点にも王不留行を貼付
  14. 左示指尺側爪甲根部に刺絡→患者さん「痺れが楽になった」。左足竅陰に刺絡。
次に腹臥位になり背部兪穴の圧痛および過敏反応を確認した。右厥陰兪、左大腸兪に圧痛。
  1. 左膏肓に平補平瀉(右厥陰兪に向けて鍼を置く)→右厥陰兪の圧痛消失
  2. 右意舎に平補平瀉→左大腸兪の圧痛消失
  3. 右三焦兪に皮内鍼保定→左委陽の痛み消失
  4. 腰陽関付近の細絡に刺絡
  5. 右頚部痛を訴えたので、過敏反応のあった右液門に鍼を置くと、痛みは消失した。
自宅での右日月への温灸および週2回程度の通院を勧める。患者さん「2回でも3回でも来ます。来てよかった。もっと早く来ればよかった」。

  鍼を置くだけで次々と圧痛などが消えていきました。患者さんに対して丁寧に説明され、治療途中に出てきた愁訴もきちんと汲み上げ、患者さんも満足された様子でした。今まで色々治療を受けてもよくならず患者さんも不安だったでしょうが、ここで治療を続ければよくなるかもしれないとの希望をもたれたように感じられました。
 
 ある方が「鍼灸師は変化を売る職業だ」と書いていましたが、吉川先生の治療はまさに患者さんが変化を実感でき、それが治療を続ける励みになるのは間違いありません。初診の患者さんの信頼をしっかりと獲得されていることに感銘を受けました。その他印象に残った事例を羅列いたします。
 
・治療の最後に、「どこか他に気になるところはない?」と先生が聞いたところ、患者さんが肩痛を訴えたので切経して中渚辺りに鍼を置いたら、即座に肩痛が緩解した。患者さんの愁訴を残らず最後まで取り除こうとされていた。
 
・幼稚園児くらいの男の子が、しっかりと開穴を「そこ」と意思表示していた。鍼治療の恐怖心も全くない様子だった。

・湧泉に瀉の鍼を置いた。しばらくして再度患者さんに感覚を尋ねると、今度は補になっていた。瀉の場合は時間を切って、補に変わったか確かめることが大事だと知った。
 
・左肩痛の患者さん。右王穴に鍼を置いた。しばらくすると補瀉が変わったので鍼を置き直すと、肩痛が楽になった。やはり王穴は五十肩などに効くのだと改めてわかった。

・患者さんが「ここに来れば絶対よくなるから」、「何もなくてもここに来れば身体の浄化になる」、「ここは至れり尽くせり」と言っているのを聞いた。地域の方々からの厚い信頼が感じられた。
 
・2日目に吉川先生から治療してもらった。鍼を置くと硬く張っていた私の右季肋部が柔らかくなった。背部の治療をしてもらっている時、身体のだるさがスッと晴れるような爽快感を感じた。ひどく黒ずんだ舌下静脈の色も翌日改善していた。

・圧痛等の所見や開穴の過敏反応がなくなるまで、鍼を置き直す、耳鍼をする、刺絡をするなど、手間を惜しまずとことん取り組んでおられた。刺さない鍼は治療者がラクをするためのものではなく、妥協は許されないと痛感した。(2012年)

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